友人が書いた小話。
「複写、転載、印刷、配布はご自由にされてください。
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ということなので、小話だけ転載しておく。
この小話を使いたい方は上の作者が提示した条件を守ってあげてください。
『長いピクニック』
47人のクラスメイトと先生は、ピクニックに出かけました。その中の一人、体の小さな沖人(オキト)くんは、どういうわけか一人でたくさんの荷物を背負っています。
先生が言うには、みんなが安全にピクニックをするために必要な荷物なのだそうです。そういうわけで、この荷物のことを「みんなを守る荷物」とみんなは呼んでいました。
しかし、沖人くん、このあまりにも重い荷物のために苦しくて、みんなよりもずいぶん遅れて歩いています。
沖人くんは言いました。「先生、もう荷物持てません」
沖人くんは言いました。「先生、この荷物、本当にこれだけ必要なんでしょうか?」
みんなが楽しみにしている食事の時間になりました。
47人がそれぞれ一品ずつ持ち寄ったサンドイッチやハンバーグ、サラダ、フルーツ…様々な食べ物が敷物の上に集められました。沖人くんは、南国の珍しいフルーツを持ってきました。クラスのみんなはそれを見て、「わぁ」と目を輝かせました。
「さあ、みんなでいただきましょう。」と先生。
みんなは思い思いに料理に手を伸ばし始めました。楽しそうです。
先生が優しく言いました。
「沖人くん、お荷物大変ね。先生が料理とってあげるね。」
先生は、沖人くんのために特別にもってきた弁当箱に、集められた料理の中から沖人くんの好きそうなものを詰めて、少し離れたところに腰を下ろしている沖人くんの前においてくれました。
それを見て、クラスの何人かがざわつきました。
「沖人くんだけ、先生からお弁当もらってる。いいなぁ。」
「みんなを守る荷物を持ってるから、特別なのよ。」
「弁当もらってるんだから、ぶつぶつ文句言うなよな。」
でも、沖人くんは思いました。
「このお弁当、みんなが食べている分と量はそんなに変わらないんだけどなぁ、体の大きさの違いを考えても。僕よりたくさん食べている人も何人かいるし…」
食事が終わって、また47人と先生は歩き始めました。
相変わらず、沖人くんはみんなを守る荷物の重さにあえいでいます。この荷物、うるさい音がしたり、変なにおいがしたり、妙な汁が漏れ出てきたり。それらがいっしょくたになって沖人くんの肩にぶら下がったり、背中の上に積みあがっているので、たまったものではありません。
そうしているうちに、右の肩にさげていた荷物の重みで、沖人くんの右腕がうっ血してきました。
「先生、僕の右腕が…」
先生はたいそうな心配顔で、しばらく考えてこう言いました。
「沖人くん、右肩にさげているその荷物、左の肩に持ち替えなさい。」
「え? そんな…。だって、左の肩にも荷物さげているんですよ。」
「沖人くん。そんなこと言ったって仕方ないじゃない。背中だって荷物でいっぱいでしょ。だから、右腕が腐れてしまわないためには、左の肩で持つしかないの。ね、これが右腕を守るただ一つの方法なのよ。先生は決めました。そうしなさい。」
クラスメイトの何人かが、「そうだよ、そのほうがいいよ、仕方ないよ」と先生に合わせて言いました。
一方、別のクラスメイトの何人かは、沖人くんと先生の会話をずっと聞いていて、心の中で疑問を感じています。
(みんなを守る荷物なのに、どうしてほとんど沖人くんが持っているんだろう?)
(荷物って何が入ってるんだろう?本当に全部必要なのかな?)
(ダメじゃん、不公平だよ)
(その荷物、本当は必要ないと思う。捨てたほうがいい。)
でも、先生が決めたことに疑問や異論をはさむと怒られそうで、怖くて口に出せません。
そのうち一人が、
「先生、沖人くんの右肩の荷物、僕が持ちましょうか?」
と言いかけましたが、ピクニックを楽しむみんなの声にかき消されてしまいました。
とうとう、背中に積み上げて背負っていた荷物の重みで、中に入っていたナイフが袋を突き破り、沖人くんの体に深々と刺さりました。
沖人くんは、その場で息絶えました。
うっ血した右手にお箸を、左手に弁当箱を握りしめたままで。
動かなくなった沖人くんの周りにみんなが集まってきました。
先生は、目に涙をいっぱいためて怒りを込めて言いました。
「許せませんね、この荷物は。」
みんなも言いました。
「ひどいことするよ、この荷物は。」